永遠の美に関する考察

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永遠の美に関する調査

工業意匠に関する調査した結果を共有する。日本歴史に残る仏像や建築物に対し、多くの人は美しく感じる。この理由は何か?この理由がわかれば工業意匠に適用することで多くの人に対して、永遠に色あせない製品を生み出すことが出来ると考える。私なりに歴史に残る様々な資産を調査し、独自の意見をまとめる。

工業デザインにおける永遠の美とは?

工業デザインを狭義に定義づければ、

「デザインとは、人間生活の目的に応じ、実用的、美的造形を計画し、これを可視的に表示するものである」と言える

一方で、仏像や歴史に残る建築物などは機能性よりも質(素材)の良さや技術的難しさに依存するところが多いと思われる。つまり、同じものを作るのが非常に難しいため価値がある。また同じ物、例えば鳥居でも苔むした神社の鳥居と外国の大富豪が所有する広々とした青芝の上に立っている鳥居とでは大きく趣が異なる。これは今まで経てきた年月とそれを信仰する人々によるところが多い。

ここで能の美ついて書く。2)

  • 能は今から700年ほど前に完成された日本の伝統芸能、そして美である。
  • 演じる題目や能面は昔から少しも変わらない。能面、面(オモテ)は変形すること無く、見る人の角度によって異なった表情が表れる。
  • 能楽は外なら夜行われ、日中なら能楽堂の中で暗くして行われる。
  • 能楽の(特にシテの動き)は彫刻そのものであり、動くときは必要最小限の動きをし、移動の時は上半身の形を乱さず足のみをすべらしスーと進む
  • その衣装は輪郭がくっきりと表れるよう作られている。

このような工夫を例えば車などに応用すれば非常に良いデザインの車が誕生すると考えられる。

以下にデザインが生まれる過程を考える。1)

  1. その製品は何に使われるかという用途
  2. どのような構造にすれば目的に対して最も役に立つかという機能
  3. どのような材料が最も適しているかという材料
  4. どのくらいの費用がかけられるかという経費
  5. どのような機械または道具でどのように作られるかという工作技術
  6. 環境や週間に伴う伝統と、時代の先端をいく流行を調和させる様式
  7. どのようにすれば美しく快い形や色が表せるか、造形美

能の場合、使う道具は能面や着物など非常に洗練されている。つまり質の良い材料を使って、(量産するためでなく)本物を作り出すために職人が手間を掛けて、値段にすると数百万になる道具を使って舞台を作っている。

またキリスト教の礼拝では、キリストの体としてワインやパンなどが完璧に無駄がないように丁寧に扱われている。一つひとつの動作が宗教的観念に立って考えつくされている。(ただし、そのため若干の変更が毎年行われているし、流派もある。)

これを車で言うと、良い車を作るために必ずしもカーボンのような特殊な素材を使う必要はなく、日産のGT-Rなどもスポーツカーなのに車は鋼(スチールとアルミとカーボン)である。したがって考えつくされて、全体として合理的であるなら、良い車になるのである。3)

図1 キッコーマン卓上しょうゆびん

ここで、キッコーマン卓上しょうゆびんを例にとって考えてみる。図1。キッコーマン卓上しょうゆびんは特に仏像デザインとして紹介されているわけではないが、仏像の美しさと同じように、どこか洗練された美しさを感じたため、今回注目した。4)

キッコーマン卓上しょうゆびんは発売以降50年以上同じデザインで販売されている。デザインをしたのはインダストリアルデザイナーの栄久庵憲司さん。「液だれを起こさない卓上びん」を目指して開発された。注ぎ口の上部よりも下部を短くしたところ、液だれがなくキレもよくなったことから、この形状が採用された。

デザインの一つひとつに注目する。卓上びんのキャップの色を赤なのは、しょうゆの赤褐色とのコントラストが美しく見えるようにするため。また素材にガラスを採用しているのは、ガラスは透明なのでしょうゆの残量も一目でわかり、かつしょうゆの色を美しく見せることもできる。また、しょうゆとキャップの間にできる空白の美しさを演出するため。と、非常に合理的で、私自身もしょうゆ差しと言われたらこの商品が頭に浮かぶくらい、完成されたデザインであると思う。

ここでデザインが備えるべき条件を参考文献より抜粋(一部省略)する。1)

  • 合目的性…椅子の高さなど
  • 審美性…大衆によって共通に感じられる美しさをねらう、時代性、国際性、民族性、社会性、個人性
  • 機能的なものは美しい。ただし建築など(航空機や橋)はともかく日常の用品は行き過ぎ。これは物理的機能性と心理的機能性に分けて言うこともできる。
  • 独創性…リ・デザインにとって独創性は必要で一見平凡な中にも神経の通った新しい草案が施させるのが良い
  • 経済性…合目的性と審美性と経済性が密着したときにもっとも優れたものとなる
図2 マツダロードスターのカーライト

つぎにマツダのロードスターについて書く。5)

マツダのロードスターはカーライトが車のフォルムを損なわないようにLED方式が採用され、通常の車よりも奥まったデザインになった。

これにより仏像に使われる玉眼(ぎょくがん)と同じ効果が偶然得られた。玉眼とは仏像の眼球に推奨を埋め込む方式でどこにいても視線を感じるデザインとなっている。

ロードスターは2015年のThe Most Beautiful Car of the year の2位に選ばれた6)。個人的にロードスターの目の部分は非常に気に入ったが、デザイン全体(フォルム)で言えば、フェラーリに似ている。本稿の最初の方でも書いたが、同じものでも場所が異なれば趣も異なる。この車のフォルムは日本のナンバープレートをつけて、(景観を重視していない)日本の街を走るときに不向きであるため。個人的に日本ではあまり乗りたくない。

なおフェラーリの会社には美しい曲線を引くための秘密の雲形定規があると言われる。と昔、線形代数の先生から聞いたことがある。それで引いた曲線はとても美しいらしい。

結論

以上から私が本稿を通して書きたかったことをまとめる。仏像からデザインを学ぶときは、そのフォルムと同じくらい、その彫刻技術や素材の扱い方が重要であると私は考える。その例が先ほど挙げたマツダのロードスターに使われた玉眼の技術である。

素材の選定、つまり例えば車体の材料を決める際は日産のGT-Rが私は理想形であると考えている。というのもスポーツカーであれば車体は軽い方が良く、大抵の車はカーボンを主体にして設計される。しかし実際にはタイヤを道路に押し付ける力が必要であるため、羽のような部品を付けて下に向けて揚力が生まれるように設計されている。この矛盾をスチールを主体として使うということで重量と設計された軽量という美しさを作り出し、剛体が生まれサーキットだけでなく高速道路などでもよく見えるように設計が完成した。

また夜間や住宅街などで静かに動作することと、安全性に配慮するため視認性を向上させる意味では「能」の静かでスーと動く動作や輪郭のはっきりした衣装のイメージが良いと考える。

また能面(オモテ)はつけている人の顔の傾け方、動き、見ている人によって動かないはずの能面でさまざまな表情が創りだせている。この神秘性を先ほどの玉眼と合わせればとてもおもしろい顔になると考えられる。

なお、能面の表情が変わる原理を解明している本は見つからなかったが、おそらくは顔を見る人の角度から平面としてみた場合の、おでこと眼と口とアゴ、頬の比率によって怒った顔、泣いた顔、笑った顔、憂い出る顔、真顔などが表現されているのだと考えられる。

全体の目指すべき方向性としてはキッコーマンのしょうゆ差しだと私は考える。キッコーマンのしょうゆ差しは単体でも非常に美しいが、女性がもったときに女性の手が美しく見えるように設計されている、と言われる。おそらくその通りだと思う。たしかに美しく見える。これがデザインの本当に目指すべきだと考えられる。

つまり単体でも美しいが、使っている人、乗っている人、着けている人が美しく、もしくは優しく、見えるようなデザインを作り出すこと。これは仏像自体にも共通することである。拝んでいる人が美しく、優しく見えるような像。拝むことによって良い心になるような仏像。これが本当の仏像デザインであると私は考える。

なお、本稿では特に書く必要がなかったため省略したが、私が感心した美的形式原理(パターン)というものがあり、書いておく。以下がそれである。2)

美的形式原理には次のようなものがある

  1. 繰り返し
  2. 交互の繰り返し
  3. リズム
  4. グラデーション
  5. プロポーション
  6. シンメトリー
  7. バランス
  8. コントラスト(対比)
  9. ハーモニー(調和)
  10. ドミナンス(支配性)
  11. コンティー(統一性)

参考文献

1)    福井晃一、塚田敢;工業デザイン全書1 ~工業デザインの基礎~、全原出版株式会社、1965
2)    高村光太郎;能の彫刻美 ―青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/001168/files/46506_25634.html
3)    水野 和敏;プロジェクトGT‐R―知られざる成功の真実、(2009)、双葉社
4)    「キッコーマンしょうゆ卓上びん」は女性の”ある部分”を美しく見せるかたち – デザイン担当者に聞いてみた
http://news.mynavi.jp/articles/2014/01/06/syouyu/
5)    まるで仏像の瞳…どこからでも視線を感じるヘッドライト
http://response.jp/article/2015/03/23/247225.html
6)    THE MOST BEAUTIFUL CAR OF THE YEAR
http://www.festivalautomobile.com/gb/plus-belle-voiture/index.php

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